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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和49年(ヨ)7号 決定 1974年3月14日

申請人 全国一般嘉飯山合同労働組合

右代表者組合長 島田三郎

右訴訟代理人弁護士 谷川宮太郎

同 吉田雄策

同 石井将

同 市川俊司

被申請人(第六号事件) 飯塚タクシー株式会社

右代表者代表取締役 野上藤三郎

被申請人(第七号事件) 富士タクシー株式会社

右代表者代表取締役 野上藤三郎

被申請人(第八号事件) 東町タクシー株式会社

右代表者代表取締役 野上藤三郎

被申請人(第九号事件) 銀翼タクシー株式会社

右代表者代表取締役 福沢清子

被申請人(第一〇号事件) 合資会社鈴春タクシー

右代表者無限責任社員 嶋田敬夫

主文

申請人が各被申請人に対し、別紙(一)ないし(五)に各記載の当該賃金に関する協定中歩合給に関する部分が、昭和四九年一月二六日福岡陸運局長認可にかかる運賃・料金の変更に基く暫定運賃による増収分を含む運賃収入に効力を有することにつき、労働協約上の権利を有する地位を仮りに定める。

申請費用は被申請人らの負担とする。

理由

申請人は主文同旨の仮処分の裁判を求めた。

(申請理由の要旨)

一、申請人は、被申請人らをはじめ、嘉飯山地区の中小企業労働者により組織された労働組合であるが、夫々各被申請人に雇傭されている組合員たる乗務員の賃金に関して、別紙(一)ないし(五)に記載の協定書に基く協約を締結し歩合給を定めた。しかして、昭和四八年一一月以来のいわゆる石油危機に際し、営業車の燃料であるLPガスの(イ)供給削減による運行収入激減と(ロ)価格高騰による経費増加に対し主文掲記の如く暫定運賃が定められ、昭和四九年二月二日換算表による運賃の二一・五%値上げが実施されるに至ったがこの暫定運賃を定めた主要な理由は右(イ)による運転手の収入減を少しでも防止しその生活を保障しようとする点にあった。

しかるに被申請人らは、昭和四九年三月二日暫定運賃増収分の分配につき交渉を申入れ、同月五日に至って右暫定運賃による増収分は歩合給算定の基礎とせず、旧料金に換算して算定した運収に基いて運賃計算をすると一方的に通告した。

しかしながら、右暫定運賃認可の趣旨にてらしても、前記協約の歩合給の定めはそのまま暫定運賃に適用せらるべきであり、申請人は被申請人らに対し協約締結当事者として、所属組合員たる乗務員の賃金支払に関し、これを実施することを請求する権利を有する。

二、そうして被申請人らの賃金支払は前月分を当月一〇日に支払うことになっており、昭和四九年二月二日暫定運賃実施後の運賃収入に基く歩合給は昭和四九年三月一〇日から支払われるものであるところ、申請人所属組合員たる乗務員らは石油危機以来のLPガス供給減以来収入は激減し、更に暫定運賃実施後も乗客の減少により水揚げを確保するため就業時間を延長している状態であって、右の如き理由なき賃金の一部不払により生活破綻の危機にさらされている。

よって被申請人らに対し労働協約上の義務履行を求めるものであるが、本案判決をまっては回復し難い損害を蒙るおそれがあるので本件申請に及んだ。

(当裁判所の判断)

記録によれば、申請人がその主張の如き労働組合であり、被申請人らの雇傭乗務員中にその組合員を有していること、その組合員らのため、別紙(一)ないし(五)に記載の協定書に基く賃金に関する協約を締結して歩合給を定めていること、昭和四八年一一月以降のいわゆる石油危機に対処するため、その主張の通り暫定運賃が認可され、実施されたこと、被申請人らの賃金支払がその主張の如く翌月一〇日払となっていることは明らかである。

更に記録によれば、被申請人らが申請人に対し、夫々申請人主張の如く暫定運賃増収分の分配につき交渉の申入を為し、また新らたな協定が成立するまで、暫定的に昭和四九年三月以降支払の賃金に関して、歩合給は旧料金を基準としたい旨通告をしたこと(但しあらたな合意ないし賃金協定が成立するまでとし、成立したときはその内容に応じて清算しようというものであった)も認められる。

しかして、本件暫定運賃が燃料不足等に対応するための暫定的な緊急措置であったことは記録中昭和四九年一月二六日付福岡陸運局長発の書面(写)にてらして明らかであり、営業車の燃料(主としてLPガス)の供給不足による走行粁数の減少に伴う乗務員の収入減に対する手当の趣旨を含んでいたことは疎明があるというべきである。

そうしてまた記録によれば申請人が被申請人らと夫々締結した別紙(一)ないし(五)に表示の協定書に基く賃金協定の歩合給は一定の金額を控除した運賃収入の残額につき一定の割合を乗じた金額をもって歩合給を定めることを骨子とし、これら賃金の協定に当っては、いずれもその当時認可され施行されている運賃を基準として協定されていることも否定できない。

そこで、右歩合給に関する協定が運賃改訂に際してその後あらたな合意が成立するまでの間、どのように適用されるかを検討するに、本件記録中の各疎明資料を綜合すると、従前の運賃改訂に際しては各被申請人について別紙(六)の通り処理されたことの疎明がある。

これらの従前の経緯に前記各賃金協定の内容をあわせて検討すると、運賃改討後新らたな合意が成立するまでは新運賃収入を含む総収入に従前の歩合率に基き歩合給を算出し暫定的に支払う趣旨に本件各賃金協定を解釈すべきものである。そうして、本件暫定運賃も右認定の趣旨にてらして、その例によるべきものと解するのを相当とし、被申請人らが協定未成立を理由に賃金支払期が到来したにもかかわらず暫定運賃に基く増収分につき歩合給の支払を留保すべきものではない。よって申請人は右賃金協定締結の当事者として、被申請人にその履行を求め得るもので、被保全権利に関する申請人の主張はこれを採用することができる。この認定に反する疎明資料は措信できない。

しかして、申請人主張の保全の必要性は、本件記録にてらして疎明ありと認めることができるから本件申請はこれを認容し、民事訴訟法第八九条により主文の通り決定する。

(裁判官 岡野重信)

<以下省略>

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